4.16 個々の患者の至適 nPCR値(1)
1. 従来の方法により決定したnPCRの至適な範囲をnPCRの目標値として用いることができない患者 |
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臨床の現場では、しばしばロジステイック回帰分析などの多変量解析により決定したnPCRの至適な範囲がnPCRの目標領域として用いられる。しかし、このような至適nPCRの範囲は「多くの患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」であって、「すべての患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」ではない。したがって、患者によっては、実測のnPCR値が適正であるのか否かをこの基準に照らし合わせて判断するのが不適当であることもある。 ガイドラインの根拠となる「多くの患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」は、nPCR以外のパラメータの値は標準的なnPCR値を有する患者群の平均値にそれぞれ等しいとの前提の下で決定される。したがって、nPCR以外のパラメータのいずれかの値が標準的なnPCR値を有する患者群の平均値と大きく異なっている患者では、図1に示すような「Kt/V値と死亡のリスクとの関係」に照らし合わせて、Kt/Vの値が適正であるか否かを判断することが不適切であることもある。 |
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図 1 |
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例えば、今、透析前血清リン濃度 が8.5 mg/dL、かつnPCR値が 0.81 g/kg/day の患者がいたとする。図1に示すように、ロジスティック回帰分析法により決定した「多くの患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」は0.90〜1.50 g/kg/dayなので、この患者ではnPCRを増やすべく食事指導を行わなければならないと考えがちである。しかし、「多くの患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」は、その患者の透析前血清リン濃度が、nPCRの範囲が1.1〜1.3 g/kg/dayである患者群(基準とした患者群)における平均の透析前血清リン濃度(6.3 mg/dL)に等しいことを前提として決定されている。したがって、実測の透析前血清リン濃度が基準とした患者群における平均の透析前血清リン濃度から著しく外れているこの患者では、「多くの患者で死亡のリスクを最小にするnPCRの範囲」をnPCRの至適な範囲として採用することはできない。 | |
2. 患者ごとの至適 nPCR値 |
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ロジスティック回帰分析法を用いれば、任意の患者の nPCR値を含む多くの実測のデータ値からその患者の死亡のリスクを推定することができる。そして、これを応用すれば、任意の患者の至適nPCR値を求めることができる。すなわち、任意の患者について、nPCR以外のパラメータ値には実測値を用い、nPCRについてのみは低値から高値まで少しずつ異なる様々な値を用いて、それぞれのnPCR値における死亡のリスクを算出する。そして、図2に示すように、それぞれのnPCR値の中から死亡のリスクが最小となるnPCR値を選び出し、これを至適nPCR値とする。任意の患者において実測のnPCR値が適正か否かを評価しようとする場合には、このようにして求めた至適nPCR値と実測のnPCR値とを比較する。 | |
図 2 |