4.21 L-カルニチン欠乏の症状
1. 心臓
L-カルニチン不足が高度であれば心機能は著明に低下するが、中等度以下のL-カルニチン不足では、他のエネルギー産生機序によりL-カルニチン不足が代償されるので、心機能障害は現れない。すなわち、透析患者にみられる程度のL-カルニチン不足では、L-カルニチンの投与により心筋細胞の脂肪酸代謝異常は改善されるものの、心収縮力の増大は生じない[1]。しかし、少量のL-カルニチンの長期投与により心肥大の退縮が認められたとの報告がある[2]。また、L-カルニチン投与により、透析中に発生する不整脈が抑制されたとの報告もある[3]。
2. 筋肉
Sakurabayashiらは、透析患者30名に対し、500 mgのL-カルニチンを12週間の投与し、2/3の患者に筋肉症状(倦怠感、筋痙攣、筋肉痛)の改善が認められたと報告している[4]。
3. 貧血
Matsumuraらは、赤血球膜の浸透圧に対する抵抗性は血中のL-カルニチン濃度が低いほど低下すると報告している[5]。また、L-カルニチンの投与により、エリスロポエチン抵抗性貧血が改善したとの報告もある[6]。
3. 脂肪製剤の投与にともなう脂肪酸代謝異常
中心静脈栄養により、あるいは透析中に脂肪製剤を投与すると、体内のL-カルニチンが不足している患者では、心筋細胞内に脂肪酸が蓄積し、これが心筋細胞のエネルギー産生を阻害する。これを防ぐために、透析患者への中心静脈栄養の際、あるいは透析中に栄養補給の目的で脂肪製剤を投与する際には、その 2〜3 時間前にL-カルニチンを投与することを勧める。
4. L-カルニチンの補充療法
本邦においては、腎不全患者へのL-カルニチン投与は保険薬価に収載されていない。透析患者がL-カルニチンを服用する場合には、患者自身で健康食品として市販されているL-カルニチンを購入しなければならない。L-カルニチンは(株)ヴァイタリン・コーポレーションから1錠に200 mgを含有するカルニ・リチン 200 “KM”が、ベータ食品(株)から1本あたり、50 mgを含有する50 ml入りのドリンクであるカルフェロ、また杏林製薬から4粒あたり240 mgを含む「L-カルニチン」が発売されている。
現時点では、L-カルニチンの投与量に関する合意はできていない。L-カルニチンの投与量については、500mgが適当であるとの報告[4]から2000mgが適当であるとの報告[7]まで、様々な報告がある。臨床効果や経済的な点も考え合わせると、L-カルニチンの投与量は500 mg/day程度でよいのではないかと思われる。
文献
1. Sakurabayashi T, et al.: Improvement of myocardial fatty acid metabolism through L-carnitine administration to chronic hemodialysis patients. Am J Nephrol 19: 480-484, 1999.
2. Sakurabayashi T, et al.: Low dose, long-term supplement of L-carnitine decreases left ventricular mass in chronic hemodialysis patients. J Am Soc Nephrol. 10: 267 A, 1999.
3. Suzuki Y, et al.: Effect of L-carnitine on arrhythmias during hemodialysis. Jpn Heart J 23: 349-359, 1982.
4. Sakurauchi Y, et al.: Effects of L-carnitine supplementation on muscular symptoms in hemodialyzed patients. Am J Kidney Dis. 32: 258-264.
5. Matsumura M, et al.: Correlation between serum carnitine levels and erythrocyte osmotic fragility in hemodialysis patients. Nephron 72: 574-578, 1996.
6. Laboria WD: L-carnitine effects on anemia in hemodialyzed patients treated with erythropoietin. Am J Kidney Dis. 26: 757-764, 1995.
7. Bellinghieri G, et al.: Correlation between increased serum and tissue L-carnitine levels and improved muscule symptoms in hemodialyzed patients. Am J Clin Nutr. 38: 523-531, 1983.