21.18 総コレステロール
コレステロールは血中ではリポ蛋白の一部として存在している。すなわち、リポ蛋白はカイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDLに分けられ、それぞれのリポ蛋白にコレステロールが存在し、総コレステロールとはそれらのコレステロールの総和である。動脈硬化を促進するのは、これらのリポ蛋白のうちIDLおよびLDL中に存在するコレステロール(IDLコレステロールおよびLDLコレステロール)であり、HDL中に存在するコレステロール(HDLコレステロール)は逆に動脈硬化の進展を抑制する。ただし、IDLに存在するコレステロールは量的には少ない。 したがって、血清総コレステロール値が高い場合には、これがHDLコレステロールの増加によるものではなく、LDLコレステロールの増加によるものであることを確認してから、高コレステロール血症の治療を開始する。なお、透析患者では血清HDLコレステロール値は低いことが多い。 透析患者において治療を開始する血清総コレステロール値に関しては、まだコンセンサスが得られていない。我々は血清総コレステロール値が220 mg/dl以上である場合に血清HDLコレステロール値を測定し、男性では総コレステロール値がHDLコレステロール値の6.4倍以上の場合に、女性では5.6倍以上の場合に[1]薬物治療を開始している。 高コレステロール血症に対しては、プラバスタチンナトリウム(薬)、シンバスタチン(薬)、フルバスタチンナトリウム(薬)などのHMG-CoA還元酵素阻害剤を用いる。HMG-CoA還元酵素阻害剤は、血清LDLコレステロール値を低下させるだけでなく、血清HDLコレステロール値を上昇させる。副作用には、横紋筋融解や肝障害がある。 高い血清総コレステロール値は動脈硬化を促進する。しかし血清総コレステロール値は、同時に栄養状態の指標でもある。したがって、高すぎる血清総コレステロール値と同様に、低すぎる血清総コレステロール値でも死亡のリスクは増大する。日本透析医学会統計調査委員会によると、糖尿病患者においても非糖尿病患者においても、140mg/dl未満の低い血清総コレステロール値の患者で死亡のリスクは高く、100mg/dl 未満の血清総コレステロール値において特に死亡のリスクが高かった。一方、240mg/dl 以上の高い血清総コレステロール値の患者において死亡のリスクが高くなる傾向が認められ、260mg/dl 以上の血清総コレステロール値では有意に高い死亡のリスクを認めた[2]。
文献 1.Kinosian B, et al.: Cholesterol and coronary heart disease: Predicting risks by levels and ratios. Ann Intern Med 121: 641, 1994. 2.日本透析医学会統計調査委員会: わが国の慢性透析療法の現況 (2000年12月31日現在). pp.505-506, 日本透析医学会, 2001
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