7.25 ノロウィルスによる胃腸炎
1. ノロウィルスの感染 ノロウィルスは経口的に感染し、十二指腸および小腸上部で増殖する。十二指腸および小腸上皮で増殖したノロウィルスは、細胞を脱落させて下痢・嘔吐などの症状を生じさせる。 ノロウィルスによる胃腸炎では、死に至る重篤な例は稀であるが、患者の苦痛は極めて大きい。稀に十二指腸潰瘍を併発すること がある。
2. 流行 ノロウィルスによる感染性胃腸炎は、一年を通して発生するが、特に冬季に流行する。2007年に報告された厚生労働省食中毒統計によると、2006年の食中毒報告患者のうち 71% がノロウィルスによる胃腸炎であった。
3.感染経路
a.経口感染
b.接触感染・飛沫感染
4.症状 ノロウィルスによる感染性胃腸炎の主症状は嘔気、嘔吐及び下痢である。通常、血便を伴うことはない。発熱はないか、あるいは軽度である。小児では嘔吐が主症状であることが多いが、成人では下痢が主症状であることが多い。嘔吐・下痢は1日数回からひどい場合には10回以上となる。感染から発病までの潜伏期間は12時間〜72時間(平均1〜2日)であり、症状の持続期間は10 数時間〜数日(平均 1〜2日)である。 一般健康成人では、たとえノロウィルスに感染しても無症状であったり、軽症で終わる場合もある。重症化し、長期に渡って入院を要することは稀であるが、高齢者では合併症や体力の低下などから症状が遷延したり、吐物の誤嚥などによって二次感染を起こす場合がある。
5.診断
ノロウィルスによる感染性胃腸炎であるのか否かを臨床症状だけから確定することはできない。もし診断を確定しようとするなら、電子顕微鏡法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法などにより、便や吐物からノロウィルスの遺伝子を検出しなければならない。
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6.治療 ノロウィルスによる感染性胃腸炎に対しては対症療法が行われる。対症療法のうち、最も重要なものは経口あるいは経静脈輸液による水分補給である。これにより脱水症を防ぐ。スポーツドリンクを人肌に温めてから飲むことが推奨される。電解質を含まない湯、水、お茶などは水分の吸収が遅いので推奨されない。経静脈輸液では、血清カリウム濃度の測定結果がでるまでは、原則として1号液や生理食塩水などのカリウムを含まない組成の輸液をおこなう(健常人では、1号液以外に、ラクテックなどのカリウムを含む、細胞外液組成の輸液をおこなってもよい)。血清カリウム濃度が 3mEq/L 以上であれば、カリウムの補給をしないが、血清カリウム濃度がそれよりも低ければ、注意深く1日あたり 40mEq 程度のカリウムが投与されるようにする。輸液量については、1日あたり 1000mL 程度から始め、ドライウェイトが維持されることを目標とする。 止痢剤、いわゆる下痢止は、感染性胃腸炎の治癒を遅らせることがあるので原則として投与しない。下痢が遷延する場合には止痢剤を投与することもあるが、いずれにしても発症当初から用いるべきではない。抗生物質は無効であり、下痢の期間を遷延させることがあるので、ノロウィルス感染症に対しては通常は投与しない。制吐剤(メトクロプラミド(薬)、ドンペリドン(薬))や整腸剤(薬)の投与は行われる。なお、メトクロプラミドは肝臓でN-グルクロン酸抱合体および硫酸抱合体に代謝されたうえで腎臓から排泄される。これに対し、ドンペリドンは30%が腎臓から、70%が肝臓から排泄される。 |
■メトクロプラミド プリンペラン(アステラス製薬)
■ドンペリドン ナウゼリン(協和発酵キリン)
■整腸剤 ビオフェルミン(ビオフェルミン製薬) ラックビー(興和) ミヤBM(ミヤリサン製薬)
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7.ノロウィルスによる感染性胃腸炎の予防
a.ワクチンによる感染予防
b.吐物・下痢便の処理
c.環境の消毒 |