透析百科 [保管庫]

21.8  血清ナトリウム濃度(Na)

A.血清Na濃度の標準値

尿毒症物質が蓄積すると細胞外液の浸透圧の上昇により飲水中枢が刺激される。したがって、透析患者の透析前血清Na濃度は、健常人よりやや低めである。すなわち、健常人の血清Na濃度が135〜146mEq/Lであるのに対し、透析患者の透析前血清Na濃度は137mEq/L前後となる。

 

B.高い血清Na濃度

 透析患者において血清Na濃度が高くなった場合には、以下の3つの可能性を考える。

1. 体内のNaの総量は変わらないか、むしろ減少しているが、それを上回る水分欠乏がある。
2. 体内のNaの総量が増加しており、かつ同時に水分欠乏もある。
3.水分欠乏はないが、体内のNaの総量が増加している。

 著明な脱水があれば、上記の中、1. あるいは2.を疑う。日常、臨床的に遭遇するのは、1.の場合、すなわち体内のNaの総量は不変か、あるいはむしろ減少しているが、それを上回る水分欠乏がある場合である。このような症例の治療は、経口的に水分を摂取させるか、あるいはこれが不可能な場合には5%ブドウ糖液を点滴することである。
患者が塩分を多量に摂取しても、あるいは患者にNaを多量に投与しても、同時に口渇が生じ水分を摂取するようになるので、細胞外液量は増えるが血清Na濃度は上昇しない。血清Na濃度が高くなるのは、意識レベルが低いなどの理由で口渇が出現しないか、たとえ口渇があっても水分を摂取することができない場合である。

C.低い血清Na濃度

 透析患者において血清Na濃度が低くなった場合には、以下の2つの可能性が考えられる。

1. 体内水分量が不足しているが、それを上回るNaの欠乏がある。この病態は、嘔吐、下痢、胃液の吸引などによって生じる。

2.体内のNaの総量は不変か、あるいはむしろ増大しているが、それを上回る水分過剰がある。透析患者では、このタイプの血清Na濃度の低下が生じる。うっ血性心不全がある場合、あるいは高血糖などのため口渇があり水分を大量に摂取した場合にも、このタイプの血清Na濃度の低下が生じる。病態に応じて治療法を選択する。体内への水分蓄積が著しく多いような場合には、透析による除水やECUMをおこなう。中長期的な対策としては、塩分・水分の制限をおこなう。

D.透析中の血清Na濃度と体内水分量の推移

 血清Na濃度が低下すると、細胞外から細胞内に水分が移行し、逆に血清Na濃度が上昇すると、細胞内から細胞外に水分が移行する。したがって、透析液中のNa濃度よりも透析前血清Na濃度が低ければ、これが高い場合よりも、細胞外液量の減少速度が緩徐である。


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