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21.29 C型肝炎ウィルスマーカー

1.C型肝炎ウィルス(HCV)とウィルスマーカー

C型肝炎ウィルス(HCV)は、ウィルス遺伝子であるプラス一本鎖RNAと、これを包むコア蛋白およびその外側を包む外殻(エンベロープ)から成る直径 35〜65nm の球状粒子である(図1)。

C型肝炎ウィルスに感染すると、ウィルスが産生する蛋白質、この蛋白質に対する抗体およびC型肝炎ウィルス自身の遺伝子が血液中に増加する。C型肝炎ウィルスマーカーとは、これらのC型肝炎ウィルスに感染したときに血液中に現われる物質の総称である。C型肝炎ウィルスマーカーを調べることにより、例えば被験者がキャリアであるのかどうか、他者への感染力は強いのか弱いのか、あるいはインターフェロン療法に対する反応は良好かどうか判断することができる。

なお、C型肝炎ウィルスに対する抗体はB型肝炎ウィルス(HCB)に対する抗体とは異なり、ウィルスを攻撃する能力が低い。したがって、C型肝炎ウィルスに対する抗体が出現したことが、そのままC型肝炎ウィルスは排除されたことを意味しているのではない。

 

 

2.HCV抗体検査

C型肝炎ウィルスは各種の蛋白質を産生し、体内ではこれらの蛋白質を抗原として抗体が作られる。そして、これらの抗体を検出しようとする検査が HCV抗体検査である。HCV抗体検査には、数種類の蛋白質に対する抗体をまとめて測定するもの(第2、第3世代)や、コア蛋白に対する抗体(コア抗体)のみを測定するものがある。

これらの HCV抗体が陽性であれば、「かつてC型肝炎ウィルスが体内に侵入したことがある」と考える。しかし、一度体内に侵入した C型肝炎ウィルスはすでに排除されたのか(HCV感染既往者)、あるいは現在なお、体内に存在するのか(HCVキャリア)は、HCV抗体検査だけではわからない。

HCVキャリアでは、C型肝炎ウィルスが常に肝臓から血液中に放出され続けているため、血中に放出されたC型肝炎ウィルスの抗原刺激によりHCV抗体も多量に作られる。したがって、多くの場合、HCVキャリアではHCV抗体価は「高力価」陽性を呈する。これに対し、HCV感染の成立後、C型肝炎ウィルスが体内から排除されると、もはや肝臓から血液中に新たにC型肝炎ウィルスが放出されることはなくなり、血液中のHCV抗体価はウィルスが排除された時点から長時間をかけて低下していき、多くの場合、最終的には「中力価〜低力価」陽性を呈するようになる。

いずれにしても、HCV抗体が陽性の場合には、以下に述べる HCVコア抗原検査や HCV-RNA検査など、C型肝炎ウィルスそのものを検出する検査を実施し、被験者が HCV感染既往者であるのか、あるいは HCVキャリアであるのか、明らかにする。

 

 

3.HCVコア抗原検査

コア抗原検査とは、図1に示すC型肝炎ウィルスのコア蛋白を直接検出しようとする検査法である。「HCVコア抗原陽性」であれば、検体中にC型肝炎ウィルスが存在する(C型肝炎ウィルスに感染している)と考える。HCVコア抗原検査は、その感度・特異度において、次に述べる HCV-RNAの核酸増幅検査に匹敵する。検査費用は HCV-RNAの核酸増幅検査よりも安い。

 

 

4.HCV-RNA検査(核酸増幅法)

核酸増幅検査(Nucleic acid Amplification Test:NAT)とは、標的とする遺伝子の一部を試験管内で約1億倍に増やして検出する方法である。この方法をC型肝炎ウィルスの遺伝子(図1に示すRNA)に応用すると、検体中に存在するごく微量のC型肝炎ウィルスの遺伝子を検出できる。この方法は HCV抗体が「中力価」〜「低力価」陽性を示す人に対して、その人がC型肝炎ウィルスの感染既往者であるのか、あるいは HCVキャリアであるのか、明らかにするために用いられる。また、この方法は HCV感染の成立の直後であって HCV抗体がまだ作られていない時点(HCV感染のウインドウ期)にある人について、早期にC型肝炎ウィルスの感染成立の有無を判定するためにも利用できる。

C型肝炎に対してインターフェロン療法 を行う場合にはウィルス量を測定する。これは、インターフェロン療法の有効性に強く関係するのがHCV-RNA量と後に述べるC型肝炎ウィルスのサブタイプであることに基づいている。

HCV-RNA測定においてC型肝炎ウィルスの量を測定する方法には、アンプリコア法(アンプリコアHCVモニター)とDNA probe 法との2つがある。アンプリコア法は、定量性においてはDNA probe 法に劣るが、検出感度についてはDNA probe 法の1000倍と高い。

アンプリコア法で定量したウィルス量が1ml中に100K copies未満(10の5乗copies/ml未満)、あるいはDNA probe 法で定量したウィルス量が1ml中に1.0Meq未満であれば、インターフェロン療法の有効性は高いと推測される。

なお、C型肝炎ウィルスのコア蛋白を定量することによっても、ウィルス量を知ることができる。インターフェロン療法の有効率が高いのはHCVコア蛋白が 30pg/ml 以下の場合である。ウィルス量と病状との間に関連はないことも理解しておく必要がある。

 

 

5.HCVのウィルス型の同定

C型肝炎ウィルスの型の分類には、ウィルス蛋白質の違いに基づく分類 [serogroup(セログループ)による分類] と遺伝子配列の違いに基づく分類 [genotype(ジェノタイプ)による分類] がある。現在健康保険で認可されているのはserogroup による分類である。

serogroup による分類ではC型肝炎ウィルスを I 型と II 型の2群(それぞれ SG-1。SG-2 と表示する)に分類している。これに対し、genotype による分類ではウィルスを I、II、III および IV 型の4群に分類している。そして、genotype の II 型は serogroup の I 型(SG-1)に、また、genotype の III 型と IV 型は serogroup の II 型(SG-2)に対応する。

なお、Simmonds らによる分類(国際分類)では、C型肝炎ウィルスを6つの遺伝子型(1a・1b・2a・2b・3a・3b)に分類している。日本の genotype I 型は Simmonds らの1a、II 型は1b、III 型は2a、IV 型は2b、V 型は3a、そして VI は 3b に対応する。

図2に示すように、日本では 1b 型が全体の70%を占め、2a は20%、2b 型は10%を占めている。ウィルス型はインターフェロン療法の効果と密接に関係しており、日本人に多い 1b 型ではインターフェロン療法の効果は低く、2a、2b 型では治療効果が良いことが確認されている。

 

 

6.HCVウィルスマーカーの使い方

HCVウィルスマーカーを用いた検査の流れの一例を紹介する。まずスクリーニングとして、血液中のHCV抗体価を測定する(HCV抗体検査)。もしHCV抗体が高力価であれば、C型肝炎ウィルスのキャリアであると判断する。もしHCV抗体が中力価あるいは低力価であれば、C型肝炎ウィルスのキャリアであるのか否かを判定するために、HCVコア蛋白を測定する。コア蛋白が陽性であればC型肝炎ウィルスのキャリアであると判断し、陰性であればさらにHCV-RNA検査をおこなう。そして、HCV-RNA検査の結果が陽性であればC型肝炎ウィルスのキャリアであると判断し、陰性であればC型肝炎ウィルスに感染している可能性は極めて低いと判断する。

もしスクリーニングでおこなったHCV抗体検査の結果が低力価であれば、やはりC型肝炎ウィルスに感染している可能性は極めて低いと判断する。