透析百科 [保管庫]

21.17  心房性Na利尿ホルモン(hANP)

心房性Na利尿ホルモン(hANP)は、心房から分泌される半減期が2分と短いホルモンである。心房が伸展されるとhANPの分泌量は増大する[1,2]。心房が伸展されるのは、循環血液量が増大した場合、すなわち溢水がある場合と、うっ血性心不全[3]が存在する場合である。したがって、もしうっ血性心不全がないのであれば、透析終了後の血漿hANPが正常範囲内あるいは正常上限となったことをもって、患者の循環血液量は正常範囲内にある、あるいは溢水は是正されたとみなすことができる。すなわち患者はドライウェイトの状態にあると考えてよい。

しかし、透析患者はしばしば様々な程度のうっ血性心不全を合併しており、血漿hANPの上昇にはそのための上昇も加味されている。このような患者では、血漿hANPが正常上限まで低下するように除水を行おうとすると、透析が続けられないほどに血圧が低下する。このような患者では、透析後の血漿hANPに基づいてドライウェイトを決定するのではなく、臨床症状を基にドライウェイトを決定することを勧める。

脳性Na利尿ホルモン(BNP)の血漿濃度は、うっ血性心不全の存在の有無を判定するのに有用であるとの前提の下、hANPと同時にBNPも測定し、BNPの血漿濃度からうっ血性心不全の存在が否定できた場合に、hANPの血漿濃度が高値であることをもってドライウェイトを高く設定しすぎていると判断しようとの試みがある。しかし、果たして血漿BNP濃度が純粋にうっ血性心不全の程度のみによって決定されるのかどうかという点については疑問がある。

 

 

 

 

 

心不全のNYHA機能分類

?度   心疾患は存在するが、通常の肉体運動では症状が出現しない
?度   安静時には快適であるが、通常のレベルの肉体運動をおこなうと倦怠感、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛が出現する
?度   安静時には快適であるが、通常以下のレベルの肉体運動でも倦怠感、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛が出現する
?度  安静時にも心不全症状あるいは狭心症症状があり、どのようなレベルの肉体運動でも倦怠感、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛が増強する

 

 

 

文献

1.Goetz KL, et al.: Atrial stretch increases sodium excretion independently of release of atrial peptides. Am J. Physiol 250: R946-R950, 1986.

2.Edwards BS, et al.: Atrial stretch, not pressure, is the principal determinant controlling the acute release of atrial naturiuretic factor. Circulation research 62: 191-195, 1988.

3.Katoh Y, et al.: Atrial naturiuretic peptide levels in treated congestive heart failure. Lancet 851, 1986.

 


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